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吃音当事者の中には決まったフレーズでブロックが出てしまう方も多いのではないでしょうか?そんな中でも、あたたかく接してくれる人がいると気持ちも軽くなります。今回は吃音が出てしまった時の仲間の反応について、私の体験談をお話をしていきたいと思います。
吃音(ブロック)の天敵は部活の号令。
高校生時代の私はブロック(難発)の吃音に悩まされていました。
日常の挨拶や日直の号令、マニュアル対応などは、言い換えが難しいため吃音が出やすくなります。
特に母音(あいうえお)で始まる言葉はブロックが出やすく、「おはよう」「ありがとう」などよく使う言葉で言いにくさを感じていました。
私が最も苦労していたのは、部活の号令です。
部活が終わるときに、部員全員が集合して挨拶をするのですが、部長は最初に1人で言うルールでした。
「部員一同、礼!ありがとうございました。」
これが私が言わなければいけないセリフでした。
しかし、実際には「ありがとうございました。」と言う前に毎回数秒の沈黙ができてしまいました。
ピンチ!部活の号令でブロックが出てしまった。
号令が苦手だと認識したのは、部長に就任した直後のことでした。
それまでは、先代の部長が号令をかけていて、私は周りの部員と一緒に挨拶をしていたのですが、その時はブロックが出ていませんでした。おそらく、周りの人と声を揃えることで話しやすくなっていたのだと思います。
4月のある日、部長に就任した初日はそんなハードルがあるとは思いもしませんでした。
私は部長としての抱負を述べた後、部員を励まして号令をかけようとしました。
前述のとおり、私の所属している部では 「部員一同、礼!ありがとうございました。」 がお決まりのセリフでした。
私が「礼!」と号令をかけると部員全員が一斉にお辞儀をしました。
しかし、次の言葉がなかなか出てきません。
部員はお辞儀をしたまま、私のほうに顔だけを向けて不思議そうにしていました。
私は緊張で背筋に汗が流れるのを感じつつ、絞り出すように号令を言い終わりました。
私のブロックを受け入れてくれた部員たち。
それからというもの、部活の号令ではお辞儀の後に毎回数秒の間があくことになりました。
部員は最初は戸惑いながらも、私の話すペースに合わせてお辞儀をして待っていてくれましたが、ある日変化が起こりました。
その日はいつになく吃音の波が激しく、ブロックも強い日でした。
号令の際、普段より長い沈黙が続きました。多くの部員は真面目にお辞儀をし続けながら、口をパクパクしながらも黙っている私の顔をチラチラ見て様子を伺っていました。
お辞儀をしながら、顔だけ私のほうを向けている様子があまりにも可笑しいので、とうとう私は噴き出してしまいました。
すると、部員たちの緊張が一瞬ほぐれて、一斉に笑い出しました。
「部長のそういうところ好きです。」お腹を抱えて笑いながら、そう言ってくれる後輩もいました。
それからというもの、新入部員が入れば「この部活の号令は、いつもこんな感じだから」と説明する者さえ出ました。
完璧な部長ではなかったけれど、笑顔で務め上げることができた。
高校を卒業する際、沢山の後輩から色紙をもらいました。
色とりどりのペンやシールで可愛くデコレーションされた色紙にはこんなことが書いてありました。
「部長の独特な号令スタイルが好きでした。」「部長のあの号令を聞けないのは寂しいです。」
その色紙を見て驚きました。号令さえ、ろくにできない私は部長失格だと思っていたからです。
思い返せば、3年間の部活のなかで、ブロックについて嫌なことを言われたことはありませんでした。むしろ、最初は気を遣ってもらっていたようにも感じました。
しかし、あの日ブロックが酷くて号令に時間がかかった私が笑いだしたとき、部員たちとより近い存在になれたのではないかと思います。
完璧な部長ではなかったけれど、感謝のメッセージが沢山載った色紙を抱えて、私は笑顔で卒業することができました。
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