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吃音を抱えている子供の中には学校の発表が苦手な子も少なくありません。吃音を持つ私もかつて、人前に出るのが苦手な子供の1人でした。
私が人前で話すことができるようになったのは、ある友達のサポートのおかげでした。今回はそのお話をしていきたいと思います。
人前に出るのが苦手な私。友達に指名されて全校生徒の前で司会をすることに
あやねちゃん(仮名)は今でも交流のある仲の良い友達の一人です。小学校の1年生の時に彼女と出会いました。
あやねちゃんはクラスの中でも目立つ女の子で、人前に出ても物怖じしないタイプの子でした。引っ込み思案な私は堂々と振る舞う彼女に憧れていたことを覚えています。私と彼女は席が近かったこともあり、すぐに仲良くなりました。
私が通っていた小学校のすぐ近くに留学生を多く受け入れている大学がありました。小学校では毎年、多様性教育の一貫として留学生を学校に招待して国際交流イベントを開いていました。
小学1年生の秋、学校に恒例の国際交流イベントが開かれることになりました。私たちのクラスでも留学生歓迎会の司会を決める会議が開かれました。
歓迎会は全校生徒が体育館に集まる大イベントです。担任の先生が司会をやりたい人を聞いたときに、真っ先に手を挙げたのはあやねちゃんでした。
私は歓迎会に沢山の人が集まると聞いて、想像するだけでも緊張するのに、あやねちゃんは凄いなと感心して見ていました。
先生があやねちゃんの名前を書いている途中で、あやねちゃんが私の方を振り返りました。そして、突然先生に「奥村さんと一緒に司会をしたいです」と言いました。
先生は私の返事を待たずに、あやねちゃんの名前の横に私の名前を書きました。私は何が何だか分からず、あやねちゃんの顔を見たとき、彼女は一瞬ニヤッと笑って黒板の方に向き直りました。
「一緒に行ってくれてありがとう」 友達からの突然の感謝の言葉
あやねちゃんがなぜ私を司会に巻き込んだのか分からず、その日は遅くまで布団の中で悩んでいました。明日先生に言って司会を取り消してもらおうとさえ考えました。
しかし、あやねちゃんがいつも仲良くしてくれていることを思うと無下に断ることもできず、もたもたしているうちに留学生歓迎会の日になってしまいました。
その日、あやねちゃんとわたしは体育館の外で待機するように先生に言われて、ほかのクラスメイトより少し早めに教室を出ました。
体育館に向かっている途中、あやねちゃんの口から「一緒に行ってくれてありがとう」という言葉を聞きました。その時、私はなぜ今そんなことを言うのか分かりませんでした。
体育館はきれいに飾り付けられ、ステージの上には留学生を歓迎するメッセージが掲げられていました。全校生徒が列になって体育館に入っていくと、その場はあっという間ににぎやかになりました。
留学生が入場して席に着くと、いよいよ私たち2人の出番です。先生に誘導されるまま、あやねちゃんと私はステージに上がりました。
ステージに立つと全校生徒が私たちのほうを見ていることに気が付いて、思わず足がすくんでしまいました。あやねちゃんは私の腕をつかんで、ひっぱるようにマイクの前まで連れて行ってくれました。
留学生は緊張している私を見て満面の笑みで迎えてくれました。私たち2人は事前に話し合って決めた歓迎の言葉をメモを見ながら声を合わせて読み上げました。
留学生はありがとう、と手を合わせて、満面の笑みで私たちに手招きをしてハグをしました。広報のカメラのフラッシュに目がくらみながら、ステージを降りたあとは終わった安堵感でいっぱいでした。
友達がくれた機会が人前に立つことが苦手な私を変えてくれた
数日後、学校新聞で国際交流イベントが大きく取り上げられました。私たちの写真も掲載されていたので見てみると、そこには私より緊張した顔のあやねちゃんが写っていました。
なぜ私を一緒に立候補させたのか、なぜあの日、「一緒に行ってくれてありがとう」と言ったのか、その疑問が一瞬で分かりました。あやねちゃんも私と同じく全校生徒の前に立つのが初めてで、不安だったのです。
あやねちゃんはその後すぐに県外に転校してしまいましたが、今でもよい友達です。大人になってから当時の思い出話をしているときに、なぜ留学生歓迎会の司会に私も立候補させたのか聞きましたが、まったく覚えていないようでした。
その後、私は相変わらず人前に出ることが苦手な子でした。しかし、緊張する場面に直面するたびに、全校生徒の前で司会をすることができたことを思い出して自分を励ますことができました。私に貴重な体験をさせてくれたあやねちゃんには感謝してもしきれません。
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