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吃音がある人の中には、小さな声しか出せないことに悩んでいる人もいるのではないでしょうか?私も長年吃音を気にして声を抑えていたせいで、今でも大きな声を出すことができません。今回は小さな声の私でもコミュニケーションに自信を持つことができた、きっかけについてお話したいと思います。
吃音があって声が小さいせいで、ボランティア先で迷惑をかけてしまった。
「え?もう一回言っておくれ。あなた、声が小さいからよく聞こえないんだよ」
高校2年生の夏休み、私は自分の声量を指摘されてうつむいていました。
ボランティア委員会に入っていた私は、夏休みを利用して高齢者施設でボランティアをしていたのです。
目の前に座っている女性は補聴器を付けていて、大きな声で話しかける必要がありました。しかし、私の声が小さすぎて聞こえないと言っていたのです。
私の顔を怪訝に眺めている彼女に、私は何と言っていいか悩んでいました。
私は幼いころから吃音を気にしていたせいか、大きい声を出せなくなっていたのです。
思いっきり声を張り上げたつもりでも、ホールに設置してあるテレビの音量にかき消されて、目の前の入居者に届きませんでした。
焦った私は急いで話そうとしましたが、同時に強いブロックが出てしまい、驚いたのか入居者はどこかへ去ってしまいました。
上手く話せなくても人が集まる入居者さんの存在。彼と私の違いは何?
「ボランティアに行っても人を助けるどころか、困らせてしまった…。」
家に帰って1人お風呂に浸かりながら情けなくなって泣きました。
泣いている間にも、その日会った入居者さんの顔が頭や言われた言葉が浮かんで、忘れることができませんでした。
ふと、ある入居者さんの方が思い浮かびました。
彼は病気の後遺症で、うまく言葉を発することが難しい方でした。しかし、彼の周りにはいつも沢山の人が集まっていて、直接彼に話しかけたことはありませんでしたが、いつも癒しをもらっていました。
一方で、私の周りには人が来ず、勇気を出して話しかけても声が小さいからと怪訝な顔をされてしまう始末でした。
「彼と私の違いは何だろう?」
分からなかった私は、翌日勇気を出して彼に直接聞いてみることにしました。
「話すことを諦めないこと。あと、笑顔。」
当時の私は人に話しかけることに苦手意識を感じていました。
そのため、ボランティア中もなるべく人と話さなくてすむように、シーツを畳む係やコーヒーを淹れる係についていました。
しかし、今日は聞かないといけないことがありました。話さなくても、いつも周りに人が集まる入居者さんに話を聞きたかったからです。
朝のボランティアミーティングの時、私は勇気を出して入居者さんたちのお話相手の係に立候補しました。
その日は一日、新しい業務に慣れずに目が回るような時間を過ごしました。ボランティアが終わる直前に、運よくお話を聞きたかった例の入居者さんと2人きりになりました。
彼と2人きりになったとき、すぐに気が付いたことがありました。
私が緊張して話すタイミングを伺っていると、彼がニッコリと笑ったのです。
それは、今日初めて話す私のことを、暖かく迎えてくれるような、とても素敵な笑顔でした。
私は彼の笑顔に励まされて、緊張でつっかえながらも質問しました。
「私は言葉が小さいので、人と上手くお話できません。どうしたらいいでしょうか?」
彼はゆっくり頷くと、少し考えていました。
「話すことを諦めないこと」
「あと、笑顔」
彼は病気の後遺症で上手く話すことはできませんでしたが、なんとか口の動きを読み取って、その2つの文章を理解しました。
家に帰ると、私はすぐに鏡の前で笑顔の練習を始めました。
への字の口は上に持ち上げても、すぐに下がってしまいましたが、諦めずに何度も笑顔の練習を続けました。
口角が筋肉痛になるほど練習した後は、人前で笑えるくらい自然な笑顔になった気がしました。
笑顔で話すことを心掛けたら、人が集まってきた!
新学期、私は普段より口角を意識して学校に登校しました。
そして、教室に入った時に元気よく「おはよう」と挨拶をしました。
実際はブロックが出てしまい、顔をしかめながら「お…おはよう」と言いましたが、言い終わった後に口角を上げて笑顔を作りました。
すると、普段あまり話さないクラスメイトに話かけられて、夏休み中の出来事を話すことができました。
ボランティアが終わった後、高齢者施設で大切なことを教えてくれた彼とは会っていません。しかし、その日教えてもらったことは今でも大切な教えとして私の心の中に刻まれています。
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