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吃音対処法については色々ありますが、今回はカウンセリングの観点から取り上げていきます。
幼い頃に吃音を発症し、セルフヘルプグループでカウンセリングを受けたことをきっかけに、今では吃音専門カウンセラーとして活躍されている馬田裕次さん。
さまざまな悩みを乗り越えてカウンセラーとなった今、他の吃音当事者のために辛い悩みを軽くする秘訣を教えていただきました。
(取材=藤本浩士 文=奥村安莉沙)
吃音に対処する方法を模索する日々・・・
そんな中、出会ったカウンセラーという「天職」
ー馬田さんご自身も吃音当事者とお伺いしました。どのような経緯でカウンセラーになられたのですか?
馬田裕次さん(以下、馬田)吃音になったのは、ちょうど物心ついた時だったので、おそらく幼稚園ぐらいだったと思います。その頃は母親が病気で入院してしまい、寂しかった時期でした。
それからは吃音を誤魔化しながら過ごしてきたのですが、就職のときは不安でした。社会に出ていくのも不安な上に、言葉が出ないというのは、とてつもない重圧でした。そのため、就職するというのはイメージできていなかったです。
ある時、吃音の対処法を探るため、セルフヘルプグループでカウンセリングを受けました。カウンセリング修了時にカウンセラーの先生から、カウンセラーに向いているから勉強してみないかと声をかけてもらったのがきっかけでカウンセラーの道に進もうと思いました。
その後、セルフヘルプグループのカウンセラーとして5年間実践を積み、民間のカウンセラー養成学校に通って資格を取りました。
吃音対処法としての吃音カウンセリングの目的は、吃音を通してあるがままの自分を自覚し、真の人間的な生き方に導くこと。
ー馬田さんは吃音専門のカウンセラーとのことで、どのようにカウンセリングを行っているのですか?
馬田)日本では盛んではないですけど、アメリカに問題解決型のカウンセリングというものがあります。私のカウンセリングでは、そのアメリカの技法と日本で主流の「来談者中心療法」というカウンセリング技法などクライアントに合わせて様々な技法を融合させて行っています。
日本とアメリカのカウンセリング技法は大きく異なります。日本の主流の「来談者中心療法」は、カウンセラーがクライアントを受容し話に共感する、そうすることでクライアントが自分の問題に気づくというのが狙いです。一方、アメリカではもっと積極的な介入をする問題解決型のカウンセリングが主流に行われています。
私が日本で主流の技法に加え、アメリカのカウンセリング技法を採用している理由は、日本で主流の「来談者中心療法」は相談者の気づく力がないと変容(*1)しない弱点があるからです。
*1変容:クライアントの心理状態に変化が生じること。
アメリカの技法では、そのような相談者のスキルに比較的左右されずにカウンセリングを進めることができ、より短い時間で効果を出すことが可能です。そのため、基本的には日本で主流の「来談者中心療法」を採用していますが、アメリカの問題解決型のカウンセリング技法などクライアントさんに合わせて様々な技法を組み合わせて行っています。
前述では一般的なカウンセリングについてお話ししました。ここからは吃音に対処していくためのカウンセリングについて詳しく説明していきたいと思います。
私の吃音カウンセリングは前述の「来談者中心療法」を開発した臨床心理学者カール・ロジャーズの思想をもとに吃音のカウンセリングをしています。どういうことかと言うと、吃った時の感覚をあるがままに知覚することによって、不適応から脱して主体的に生きることが出来るようになるということです。
ただ、そのためにはクライアントが「感じたままに話す」ということが必要になります。考えをまとめないで「感じたままに話す」ことは普段あまりないと思います。そういう場をカウンセリングの場で設けるために、カウンセリングの前半は文章を読んで美しいものについて感じたことを話すということを行います。
大切なのは知的に理解するのではなく、美しさを情緒的に感じることで、その感じ方を吃音が出ている時の身体の感覚に当てはめることです。
カウンセリングの後半は、実際に音読などをして吃った時に身体にどの様な反応がおこっているのかを感じていきます。正しく感じることが出来ると、自然治癒力が働き吃音が改善されていきます。
吃音に対処するには、自分を苦しめているのは自分自身だと知ること。
客観的に状況を捉えるためにはカウンセラーに相談を
ー気持ちが楽になる考え方は?
馬田)カウンセリングの根本的なところなんですけど、「吃るから自分はダメだ」と自分に対して評価を下さないことです。吃っても吃らなくても自分は素晴らしいと受け入れられることが一番大切です。この考えはカウンセリングでは「DoではなくBe」と良く言います。要するに、行動ではなくあなたの存在自体が素晴らしいということです。
もしそうではなかったら、例えば何もできない赤ちゃんや仕事ができないお年寄りは存在する意味がないということになってしまいますよね。でも、いなくなったら悲しい。したがって、人はいるだけで役に立っているんだと僕は思います。そういう目を自分に向けていくことが重要です。
結局、自分を苦しめているのは自分自身なんです。ただ、1人で負のループから抜け出すのが難しいですよね。だからこそ、カウンセリングがあるんです。
この前、クライアントさんから嬉しいことを言われました。「今までは吃音さえ治れば人生バラ色だと思っていたけれど、そうではないことに気がつきました。もっと大切なことは沢山ありますね。」って。
ー最後に、今辛い日々を過ごしている方へ一言お願いします。
馬田)一言で言うなら「大丈夫、なんとかなる」。人の苦しみや恐怖感は自分自身で増幅させているところがあります。本当は小さな恐怖なのに「怖い、怖い」と思っていると、どんどん膨らんでしまいます。状況を客観的に観察できるようになると、こんなものだったのかなと気づくことができます。
例えば、あなたの周りに人が10人いるとします。あなたが吃ったら1人くらい笑うかもしれませんが、大多数の9人は黙って聞いてくれているとします。しかし、あなた自身が10人全員が笑っていたと思ってしまっては、苦しみは増してしまいます。
ただ、こうした客観視をすることは1人では難しいので、カウンセラーなど他の人に相談して対処するのも大切です。
本当にそうだったか?状況を客観的に見ることが大切
●プロフィール 馬田裕次
幼少期から吃音に悩み、セルフヘルプグループにて吃音のカウンセリングを受ける。それをきっかけにカウンセリングの学校に通い、現在は吃音専門のカウンセラーとして活躍。カウンセリングを受けるには、インスタグラム(https://www.instagram.com/stardustcling/)もしくはツイッター(https://twitter.com/stardustcling)でフォロー後、メッセージにて受付。1時間2,500円。
オンラインのビデオ通話での個別カウンセリングを実施。公式ウェブサイト(https://star-cling.com/)
🖋編集後記🖋
馬田さんの優しいお人柄もあり、インタビューは終始和やかな雰囲気で進みました。
カウンセリングでの「DoではなくBe」のお話では、吃音があってもなくても存在自体が素晴らしいと自分自身を認める大切さについて改めて気づくことができました。
2016年に相模原で障害者施設で障害がある方々が「意思疎通のできない重度の障害者は不幸かつ社会に不要な存在」という理由で殺害された大事件がありましたが、吃音についてだけではなく、社会全体がお互いの存在を認め合う「DoではなくBe」の考え方が普及することが大切だと思いました。(奥村)
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